彼女の名は!~サラの鍵

アンクル

2012年02月23日 20:33

1942年。
ナチス占領下のパリで、フランス警察が自国民のユダヤ人約13,000人を一斉検挙し、ヴェルディヴ(冬季競輪場)に押し込めて、その後次々と収容所に送るというユダヤ人迫害事件が起こりました。
この事実は、1995年に当時のシラク大統領が明らかにするまで公にはされず、フランス国民は大きな衝撃を受けたと云われています。




この映画はその事件をもとに、あるユダヤ人少女の悲劇と、人生の岐路に立っていた女性記者が少女の運命を知ることで、新たな希望を見出してゆく姿を描いています。

ジャーナリストのジュリアは1942年の迫害事件を取材するうちに、あるユダヤ人家族の悲劇、自分の弟を守るために、弟を納戸に隠した長女サラの秘密を知ることになります。
しかもその家とは、ジュリアが現在住んでいるアパートでした。
サラとの不思議な因縁を感じた彼女は、その真相に迫ります。

サラは弟を救わねばと、危険を顧みず収容所を脱出しますが、結局弟を救うことは出来ませんでした。
ひとりだけ助かった彼女は、その後アメリカに渡り、結婚して息子をもうけますが、弟の一件は彼女の心に重くのしかかり、そのためか若くして命を落としていたことが明らかになります。




物語は、ジュリアの現在とサラの過去とを絶妙に行き来しながら、展開していきます。

この作品の原題は<彼女の名はサラ>
その題名の通り“名前”が重要なファクターとして随所に現れます。

たとえば、収容所からサラを逃がす兵士のエピソード。
はじめは脱走を阻止しようとしていた兵士に、彼女が覚えた彼の名前で呼びかけると、一瞬ためらったあと、兵士は鉄条網を持ち上げて彼女を逃がします。
兵士ではなく、ひとりの人間として良心を呼び起こされ、ユダヤ人としてではなく、ひとりの少女としてサラを助けようとしたのです。

人間は彼とか彼女とか彼らなどという代名詞の存在ではなく、それぞれに個別の“名前”を持った、かけがえのないたったひとつの存在です。
そしてまた人間は、過去から連綿と続いて来た、いのちの歴史を引き継ぐ存在でもあるのです。

45歳にして子供を授かったジュリアは、出産を望まない夫との確執から一度は堕胎を試みますが、サラの人生を知ることで命の尊さを悟り、周囲の反対を押し切って娘を出産します。
同時に、隠されていたサラの真実を、困難に逢いながらも、サラの息子に伝えようとします。
サラの晴らすことの出来なかった悔いの思い、癒やせなかったその深い悲しみ…
それらをみんな背負って、その生きたあかしを引き継ぐ覚悟を決めたからです。




その覚悟が“名前”に示されるラスト・シーンが感動的です。
すべてを知らされたあと、幼いジュリアの娘に目を留め、その“名前”をたずねるサラの息子。
ジュリアは彼の目を真っ直ぐに見つめて、こう答えたのです。

彼女の名は … サラ!


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