2010年04月29日

さよなら、そしてこんにちは

荻原浩による七編の短編集。
新聞の書評欄でみて、ぜひ読みたいと思っていた一冊。

さよなら、そしてこんにちは


妻の初産前からあれこれ親バカぶりを発揮する、葬儀屋営業マンの奮闘を描く表題作「さよなら、そしてこんにちは」。

田舎暮らしをはじめた一家のドタバタ顛末記「ビューティフルライフ」。

子供向けヒーロー番組のイケメン俳優に萌える若いママが、その裏表に怒る「美獣戦隊ナイトレンジャー」。

テレビのモーニングショーの影響で売れ筋が左右され、スーパー仕入れ係のお父さんがその情報獲得に涙ぐましい努力をする「スーパーマンの憂鬱」。

ゆとり生活を提唱する料理評論家主婦の、ちっともスローじゃない半日を追った「スローライフ」。

グルメ評論家らしき謎の男の到来で、すっかり平静さを失ってしまうガンコ寿司職人のアタフタぶりを笑いとばす「寿し辰のいちばん長い日」。

特に最後に収められた「長福寺のメリークリスマス」では、妻と娘にせがまれ、やむなく革ジャン、サングラスで変装してクリスマスケーキを買いに行く覚念和尚がどこか滑稽なのにそれでいてやがて哀しい。
その姿に愛おしさがジワーッと胸にこみ上げて来て、七編の中でもいちばんの秀作だ。
「亡己利他(己を忘れて他を利する)」という仏の教えも、さりげなくクライマックスに散りばめられていて、見事。

花も盛りのアラフォーらしき登場人物たちの悲喜こもごもに笑いを誘われながらも、どこか切なさが心に残る。
彼らのひたむきな健気さに、思わずガンバッてとエールを贈りたい気分になってくる。


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